第2章 RINRAN

その種子は、海の生き物だった。
念願のヒカリの世界にたどりついたそれは、
もう、すでに息絶えたかのようで・・・

しばらく、無音の世界に
波音だけが、くりかえしくりかえし、こだましていた。
何日、あるいは何週間たっただろうか。
変化するものの無いその世界は、
ただ、大地だけがゆっくりと呼吸しているかのようだった。

長い時間のなかに、すべての想いも昇華されたかのようだった。

ふと、海岸の土が動いたように見えた。
錯覚だと思った、その瞬間
もう一度動いた。

カソケキモノタチは生きていた。

その力が、海岸の砂を持ち上げたその時、
小さな小さな新しい形の命が誕生した。

それは、とても不思議な形をしていた。
一本の太い棒から、細い線が伸び、またそこから細い線が伸びていく。
それが、何度も何度も繰り返し、やがて大きな線の集まりになった。

花のようなものも咲いた。
花は、新しく種をつくり、自分の足のふもとにその種を落とした。
風が吹くたびに、植物たちは歌った。

しばらく経って、海岸はその植物の大合唱となった。

もっと、遠くに種をとばしたい。
植物たちは、そう考えた。
身をバネのようにして種を飛ばす方法、
種に傘をつけて、遠くまで飛ばす方法。

たくさんの方法を考えた末に、
とうとう植物たちは、
自分たちから一匹の「使者」を生み出す決意をした。

植物たちは、一番太い幹に、
自分たちに降り注いだ雨水を全て集めた。
その雨水は、柔らかなヒカリを浴びながら
すこしづつ変化しているように見えた。
植物たちは、祈りつづけた。

ある日、
1枚の葉が芽吹いた。
他とは、形の違うその葉は、途中で2枚に別れ、
風が吹くと、時々ひらひら羽ばたいているようだった。

たくさんの植物たちが、その葉を見守っている中、
その葉は、どんどん成長し、
風がない時でも、ひらひらと羽ばたくようになった。
そして、ある時、枝から飛び立ち、一匹の蝶が誕生した。

植物たちの喜びの大合唱で、海には大きな津波が起こった。

植物たちは、蝶に伝えた。
ここからまっすぐ行くと、湖が3つある。
その向こう側にまでこの種を運んでくれないか?

そして、自分たちの持っている全ての種を蝶に託した。
「これが自分たちの希望だ。」という言葉と共に・・・

蝶は、旅立った。
後ろ足にくくりつけた種のふくろが、すごく重かったが、負けなかった。
途中によった、1つ目の湖で、ふくろに穴があき、
そこからこぼれ落ちた種が、行く道に、林をつくった。

やっとのことで、3つ目の湖にさしかかると、
のどを潤すために、陸に降り立った。
水は、蜜のように甘かった。
蝶は、再びありったけの力をふりしぼり、
最後の場所を目指したのだった。

湖をこえて、しばらく行くと、
陸のもりあがっているところがあった。
最後の力で、蝶はそこに種のふくろを降ろした。

種は半分くらいに減っていたが、
それでも数えきれないくらいの種が入っていた。

使命を終えた蝶は、その種のそばで静かに眠りについた。

やがて、そこは惑星の中で一番大きな森となり、
人知れず、「繁栄の森」と呼ばれるようになった。