第3章 森ヲ継グモノ

雨が降っている。
もう何年、いや何十年と降り続いている。

雲は厚く、ゴウゴウと流れ、
もう何年も地上が乾く事はなかった。

惑星は、緑の匂いが立ちこめ
呼吸をしているようだった。

久しぶりに、天に窓が開いた。
久しぶりに、ほんとうに久しぶりに雨が止んだ。

青々しい水蒸気のなかで、
ポンッと音がして、カサがひらいた。

同じ頃、
繁栄の森を目指して、
一匹の虫が旅にでた。

「昔、あの森には、この惑星を救った”救世主”がいたと聞く。
私たち種族の繁栄の秘訣を、おしえていただきたい」

そう言って、虫は森をめざすのだった。

湿った空気の森の中で
傘は次々に開いて行った。

赤いカサや、茶色いカサ、
気泡のあるカサや、螺旋もようのカサ。

旅は過酷なものだった。
ヌメヌメしたカサに思わず足をすべらせたり、
気泡のあるカサに、つまづいたり、

だけど虫は歩き続けた。

そんな虫をはげますように、キノコ達は体を階段にして
行く道を助けた。

もうすこしで繁栄の森の入り口にさしかかろうとしていた時、
突然、虫の体がうごかなくなった。

なにかにぐるぐると巻かれたように
身動きができず、
彼はそのままそこに横たわってしまった。

くやしさで虫は一人で涙をながした。
その水は、やがて川になった。

風がそよそよ、流れた。
川のせせらぎに
春の花びらが落ちた。


そんな、早朝。

小さな虫は、二枚の美しい羽をもった、蝶になった。

それは、いつかこの惑星に森をつくった、あの救世主の姿とそっくりだった。

たくさんの蝶の羽ばたきが、
惑星の向こう側まで、静かな風の流れをつくりだし、
どこか遠くの川に春の花びらが舞い落ちるのだった。