第4章 みにくい花と月明かりの池

惑星に森ができて ずいぶんと経った頃
生き物たちは
信号のようなもので会話をしていた

それは電気のようなもので
言葉より確かなものだった

それぞれを理解し そのままを認め
愛も誤解も無かった
そんな静かな星のものがたり

ある日 私は
いつものように虫をたいらげ
枝葉を広げて 太陽に向かって伸びをしていた

雲一つない 風も吹かない
そんな昼のことだった

ふと 体をのばして池を覗き込むと
そこには みた事もない生き物がいた

透き通るような緑の羽に
赤いつぶつぶが 行儀よく並んでいる
所々についた とげのようなものは
それぞれが呼吸をするように
キラキラとゆらめいていた

私は 自分の姿をみられまいと
さっと身を隠した

池のそばに群生する草だけが
ゆらゆらと その出会いを見守っていた

次の日 太陽の光が木々を空かして差し込む頃
私は 体をのばして また池を覗いた

あの美しい生き物に会うために

見た事も無い美しい生き物を
もう一度みたいという好奇心は
風船のように まんまるに膨らんでいった

それと同時に
自分のみにくさを恥じる心も
どんどんと大きくなっていた

その美しい生き物は いつ見ても 同じ池で 静かに微笑んでいた

そしてある日 一言 私にこう言った

「              」

私は あっと驚きの声を上げ 顔をまっかにして
そのまましばらく 池には近づかなかった
こんなにも醜い自分へ なぜあの美しい人は 声をかけたのだろう

会いにいかなければよかった

ぽたぽたとこぼれた涙は 夜露と共に
土の中へ消えていった

熟成しすぎた堆肥のような 饐えた匂いがした

不思議な夜だった
幸福を哀しんだ
満足しているのに 何一つ足りない気がした
土に落ちた涙は
根っこをつたわって 巡り
とめどなく溢れ出た

ある肌寒い新月の夜 私は密やかに
あの美しい人が棲む池へと体をのばし
水を凍らせる魔法をかけた

美しい人はそのまま池に閉じ込められた


そして私は
自ら枯れ果てた

次の夏 池のあった草原の周辺には
美しくて見事な花が咲き乱れた

それは 透き通るような緑の羽に
みずみずしい赤の斑点
色とりどりの花々の中で
一層輝きを放ち 存在していた

そして
その美しい花を 一目みようと
動物たちがあつまって 歌をうたった